世界各地の神話に出てくる宇宙の樹。
たとえば北欧神話のユッグドゥルシルは地下の冥界から天上界までを太い幹が貫いて聳えるらしい。天に逆爪を立てるように枝を翻して伸びていたのかな。
そして我が家の宇宙の樹は桂です。
幹はすらりとして、ふくよかな樹冠が愛らしい。古事記の神々は、桂を昇り降りして天地を往還したらしい。いつかは自分もあやかって満月へ、と願って植えたのが17年ほど前になる。島の暮らしから戻ったばかりの頃。息子を保育園に送ってしまえば他に何もすることがない、そんな日さえあった季節に植えた樹。枝の一本、葉の一枚が思い出ばかりのような桂の樹も伸びすぎてしまって、台風が心配なものだから今日は伐って貰った。鈴木俊太郎さん、今回もありがとうございます。
幹は高めに伐り残したので幼枝も健在だから、またいずれ涼しい木陰をひろげるのだろうけれど、いまから17年後の自分の年齢は、亡き両親を含めた眷属(けんぞく)郎党の享年をほぼ過ぎる。その頃は、今度こそ満月の高みから桂の樹を見下ろしているかもしれない。月明かりを伝ってこの庭におりてきたら、誰がどんなふうに暮らしているだろうか。